匠の業
去年の今頃のお話ですが、
父親の片身の時計が動かなくなっているのに気づきました。
古いスイス製の手巻き時計です。
ネットで調べたら
「オメガ デヴィル」というモデルでした。
私の生まれた記念に購入したそうです。
秒針もなく、ただ時針と分針だけのシンプルなものです。
仕事柄、時間を計測できるクロノグラフ付きの時計を愛用している私としては、
冠婚葬祭でもない限りドレスウォッチなど身に着ける機会はほとんどないので、
当然使用しないで仕舞っておいたのですが、思い出してゼンマイを巻いてみても動きませんでした。
そこで、ネットで調べた有名な何軒かの時計屋さんに相談したのですが、
「これは厳しいですね」
「部品がありません」
「スイス送りか部品手作りになります」
ということでした。
諦めかけて
「いいや、これはオヤジからのお守りにすれば」
と思い、あと1件回ってお仕舞にしようと、
夕方最後に行った
狭くて小さな
年配の職人さんが一人でやってる
古い時計がいっぱい並んだお店に入りました。
裏ぶたをパコっと開けて・・・
ご主人「多分直せまさぁ、中はきれいなもんです」
私、「本当ですか?、大きなお店では何軒も断られましたよ」
ご主人(苦笑しながら)
「当時の精度はだせるかどうかわかりませんが、
旦那は大切にしてらっしゃるようだ、
何が難しいかはバラしてみなきゃわかりやせんが、
やってみねぇで職人があーだこーだ言うわけにはいかねぇっしょ」
というわけで・・・・
2か月後、
本当に直って戻ってきました。
もう嬉しくて嬉しくて。
ちょっと涙がでました。
なんだか父に久しぶりにあったかのように感じました。
しかも工賃のみ。
部品代もかからなかったそうです。
不思議なもんです。
大手の有名店では断られたり、何万円もかかるといわれた修理を、
きちっと、手品のように仕上げる。
こんな職人さんがまだいるのです。
この修理から1年経って、
数週間前に動かしてみたところ、
二日間つけていて、仕事に支障はありませんでした。
多分ズレは数秒から数十秒だと思います。
これはもう見事に当時の精度をだせています。
私も「勉強職人」として
生徒の頭にかかったモヤをすきっと晴らせるような授業をして
匠の業に一歩でも近づきたいと思った次第です。
では。